うたかた
白鍵ははかない渚あたたかな雨に打たれるのを待っている
すきとおる君の譜面をめくるべく手を伸べ そこで果てたり夢は
ちっぽけなポーチを膝にそっと置く仕草すずしき君の恋人
「口紅を直しに」という正当がほしくてつぶすライスコロッケ
いつかふたり夜のプールに見たひかる眼の猫あれは義賊だったね
この喉がこんな地上でうたうとき泡だつことを君は知らない
はつなつのつんとピアノに立つゆびは、ゆびだけは美化してもいいから
思うまま踏みしめて弾け 退化した蹄のための鍵盤楽器
人魚からはるか遠くになる粟の穂にも王子は触れうるだろう
美樹さやかに僕はなりたい鱗めく銀の自転車曳くゆうまぐれ
初出:BL短歌合同誌『共有結晶』vol.3(2014年)
→ 歌集『はるかカーテンコールまで』に収録