エッセイ
関係性という幽霊、信仰という疼き ――新井煮干し子『渾名をくれ』に寄せて

 さいきん思うのだけれど、「関係性」って幽霊みたいなものだ。読者として作中の2人(以上)について、たとえば「お互いすぐ憎まれ口叩くけどラブラブ」とか思ったとしても、それって外側から、あるいは上空から観察して作り上げた解釈 […]

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エッセイ
夢のなかのミサンガ、または地の底のハーゲンダッツ・ヴェンダー

 夜の話をしよう。  京都は宇宙一寒い。これは真理だ。そんな極寒の地の底にこの三月まで八年も住んでいたくせに、慣れるどころかいよいよ寒さに弱いこのごろである。新緑の季節になってもヒートテックを履いていたし、衣替えはまるま […]

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エッセイ
ほころび

 「人は簡単に変わらないけど、人の気持ちは変わるよ」と恋人は言った。冬の朝、バス停まで見送りに行ったときのことだ。バスを待ちながら「ずっと一緒にいたいね」みたいなことを僕は言った。私もそう思うよ、でも、と前置きした口から […]

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エッセイ
体のどこかで

 過去に読んだ本のことを思い出すとき、どこでどんなふうに読んだのかもあわせてよみがえってくる。高校の図書室、旅行の移動中、十一月の琵琶湖疏水のほとり。日々がどんな色に見えていて、なにを思い悩んでいたのかまでいっしょに匂い […]

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エッセイ
何もなかったように、みたいに

忘れた、といつか答えて笑うだろうこの夕暮れの首のにおいも 笠木拓「何もなかったように」『京大短歌23号』  6月の誕生日のときに書こうと思っていた日記を今さら書きますね。 *  誕生日は月末の月曜日で、前の週の金曜日は仕 […]

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鑑賞・評論
歌の声、「私」の地平

『島田修二歌集』(国文社)をひさしぶりに開いた。たとえば次のような歌に、あらためて心を動かされる。 もの書きて畢るにあらぬこれの世の浄福に似てとほき夕映『冬音』 雨降れば甕にしづけく水溜るこの確かさに生きたきものを『渚の […]

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短歌
ギフト・ギフト・ギフト

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短歌
For You

「へこたれていじけた子になっちゃだめよ」(志村貴子『放浪息子』) ぼくの夢は夢を言いよどまないこと窓いっぱいにマニキュアを塗る 逃げきった鳥が青だよ 周到に荊を踏んでちかづくまでだ 通学は放浪だからどうしてもパフスリーブ […]

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エッセイ
短歌を始めたころ(1)

「そっか、じゃあ今は君がシリウスを吹いているんだね」とK先輩は言った。 二〇〇四年の十二月、奈良は斑鳩でのことだった。寒々しい田んぼの間を並んで歩きながら、噂にだけ聞いていた同じ担当楽器のOGと、初めて会ってそんな話をし […]

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短歌
2021年の自選5首

うつくしくかなしくめぐる季節とか夢とかおすし手からはなれて 「路銀と借景」/「弦」54号   * 夜のみぎ夜のひだりへ街灯は光を分かつ双葉のように 「ゆめかようみち」/「歌壇」4月号   * 海に架かる橋はたてごとその弦 […]

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