エッセイ

エッセイ
ほころび

 「人は簡単に変わらないけど、人の気持ちは変わるよ」と恋人は言った。冬の朝、バス停まで見送りに行ったときのことだ。バスを待ちながら「ずっと一緒にいたいね」みたいなことを僕は言った。私もそう思うよ、でも、と前置きした口から […]

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エッセイ
体のどこかで

 過去に読んだ本のことを思い出すとき、どこでどんなふうに読んだのかもあわせてよみがえってくる。高校の図書室、旅行の移動中、十一月の琵琶湖疏水のほとり。日々がどんな色に見えていて、なにを思い悩んでいたのかまでいっしょに匂い […]

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エッセイ
何もなかったように、みたいに

忘れた、といつか答えて笑うだろうこの夕暮れの首のにおいも 笠木拓「何もなかったように」『京大短歌23号』  6月の誕生日のときに書こうと思っていた日記を今さら書きますね。 *  誕生日は月末の月曜日で、前の週の金曜日は仕 […]

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エッセイ
短歌を始めたころ(1)

「そっか、じゃあ今は君がシリウスを吹いているんだね」とK先輩は言った。 二〇〇四年の十二月、奈良は斑鳩でのことだった。寒々しい田んぼの間を並んで歩きながら、噂にだけ聞いていた同じ担当楽器のOGと、初めて会ってそんな話をし […]

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